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'''大蛇嵓の怪女'''（だいじゃぐらのかいじょ）は、奈良県の[[大台ヶ原]]に伝わる伝説。男が「大蛇嵓（だいじゃぐら）」という場所で作業中に、女に化けた鬼に襲われそうになる。それを別の女が、白髯の老人「弥仙（みせん）大神」の力を借りて男を助けた。
下の文章は、昭和8年（1933年）に発行された『大和の伝説』からの引用である。この物語は「弥山大神の救ひ」と題名が付いているが、おそらくこの物語を原案として「大蛇嵓の怪女」という題名で、他書に掲載されたり、テレビアニメ（まんが日本昔ばなし）になったりしている。
{{inyou|
'''四二一、弥山大神の救ひ''' （吉野郡上北山村）
有名な大台ケ原山の東南麓、太平洋岸、紀州北牟婁郡船津村<ref name="funatsu" group="注A" />に、六兵衛という漁夫があつた。網すきに使うスクリの木<ref name="sukuri" group="注A" />をとる為に、三四日がけの用意をして、在所から八九里も離れた、しかも人から一番こはがられてゐる大台ケ原山中、大蛇嵓<ref name="daijyagura" group="注A" />のもとに分け入つた。<br>
其翌夜、焚火に対して、採り集めたスクリの木の皮を剥いてゐると、急に襟元がヒヤリとしたので、フと首をあげると、そこに四十歳位ゐの女が一人スツクと立つてゐる。ゾツとして未だ口も開かないさきに、女は六兵衛の傍にすはつて、<br>
『御飯を少しおくれ。』<br>
といふ。そして櫃に残つた麦飯を、見るまに食つてしまひ、更に、<br>
『お酒を少しおくれ。』<br>
といふ。声を聞くと、六兵衛のからだは、只機械のやうになつて動いた。女は六兵衛の五升樽を取つて、人もなげに口づけに飲みはじめた。<br>
ここへ又、突然同じ年恰好の女が一人、無言ではいつてきた。そして、前の女に対して坐つたかと思ふと、二人の怪女は、無言のまま睨み合ひを始めた。<br>
其うち、後入りの女は、ツと起つてスーツと外に出ていつた。矢張無言のままである。忽ち天地も崩れるかと思はれるやうな激しい震動が起つた。六兵衛は、其場に昏倒してしまつた。<br>
六兵衛が、程経て我にかへつてみると、酒の女は消失せ、別に巨身白髯の老人と、彼の後入りの女とが、眼前に立つてゐる。そして、女は初めて口を開いて、<br>
『六兵衛、心配すンな。我こさ、この大台ケ原の山の神ぢや。前に出たのは鬼ぢやツた。我は、汝の難儀を救はうと思うて、来たンぢやツたが、鬼の力が強かツたンで、この弥山大神<ref name="misenookami" group="注A" />のお助けを仰いで、汝を救ひ出したンぢや。もう、チヨツとも心配は入らンぞ。』<br>
と云つたかと思ふと、二神とも其姿を消したと云ふ。（吉田日出男、泉本幸七）| 『大和の伝説』<ref name="syutten" group="注A" />}}
【注A】
<references group="注A">
<ref name="funatsu">「北牟婁郡船津村（きたむろぐん ふなつむら）」は現在の紀北町の南西部（船津駅の近辺）。</ref>
<ref name="sukuri">「スクリの木」は「スグリの木」か？</ref>
<ref name="daijyagura">「大蛇嵓（だいじゃぐら）」は大台ヶ原山中の断崖絶壁の岩場で、絶景スポットとして有名。岩が大蛇の頭のような形をしている。</ref>
<ref name="misenookami">「弥山大神」は弁財天のことで、大峰山（連山）の一部「弥山（みせん、みぜん）」に降臨した神。日本の弁財天の初めとされる。天河神社の奥宮（弥山神社）が鎮座する。</ref>
<ref name="syutten">{{pid|1214606/1/165|大和の伝説（大和叢書）}}（ページ番号なし）、編修：奈良県道話連盟、高田十郎、昭和8年（1933年）1月、大和史蹟研究会・発行。戦後発行された増補版は新仮名遣いで書いてある。{{pid|9580621/1/154|大和の伝説 増補版}}pp.234-235、昭和34年（1959年）11月、大和史蹟研究会・発行。</ref>
</references>
== 関連項目 ==
* [[大台ケ原]]
{{デフォルトソート:たいしやくらのかいしよ}}
[[Category:資料]]
下の文章は、昭和8年（1933年）に発行された『大和の伝説』からの引用である。この物語は「弥山大神の救ひ」と題名が付いているが、おそらくこの物語を原案として「大蛇嵓の怪女」という題名で、他書に掲載されたり、テレビアニメ（まんが日本昔ばなし）になったりしている。
{{inyou|
'''四二一、弥山大神の救ひ''' （吉野郡上北山村）
有名な大台ケ原山の東南麓、太平洋岸、紀州北牟婁郡船津村<ref name="funatsu" group="注A" />に、六兵衛という漁夫があつた。網すきに使うスクリの木<ref name="sukuri" group="注A" />をとる為に、三四日がけの用意をして、在所から八九里も離れた、しかも人から一番こはがられてゐる大台ケ原山中、大蛇嵓<ref name="daijyagura" group="注A" />のもとに分け入つた。<br>
其翌夜、焚火に対して、採り集めたスクリの木の皮を剥いてゐると、急に襟元がヒヤリとしたので、フと首をあげると、そこに四十歳位ゐの女が一人スツクと立つてゐる。ゾツとして未だ口も開かないさきに、女は六兵衛の傍にすはつて、<br>
『御飯を少しおくれ。』<br>
といふ。そして櫃に残つた麦飯を、見るまに食つてしまひ、更に、<br>
『お酒を少しおくれ。』<br>
といふ。声を聞くと、六兵衛のからだは、只機械のやうになつて動いた。女は六兵衛の五升樽を取つて、人もなげに口づけに飲みはじめた。<br>
ここへ又、突然同じ年恰好の女が一人、無言ではいつてきた。そして、前の女に対して坐つたかと思ふと、二人の怪女は、無言のまま睨み合ひを始めた。<br>
其うち、後入りの女は、ツと起つてスーツと外に出ていつた。矢張無言のままである。忽ち天地も崩れるかと思はれるやうな激しい震動が起つた。六兵衛は、其場に昏倒してしまつた。<br>
六兵衛が、程経て我にかへつてみると、酒の女は消失せ、別に巨身白髯の老人と、彼の後入りの女とが、眼前に立つてゐる。そして、女は初めて口を開いて、<br>
『六兵衛、心配すンな。我こさ、この大台ケ原の山の神ぢや。前に出たのは鬼ぢやツた。我は、汝の難儀を救はうと思うて、来たンぢやツたが、鬼の力が強かツたンで、この弥山大神<ref name="misenookami" group="注A" />のお助けを仰いで、汝を救ひ出したンぢや。もう、チヨツとも心配は入らンぞ。』<br>
と云つたかと思ふと、二神とも其姿を消したと云ふ。（吉田日出男、泉本幸七）| 『大和の伝説』<ref name="syutten" group="注A" />}}
【注A】
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<ref name="funatsu">「北牟婁郡船津村（きたむろぐん ふなつむら）」は現在の紀北町の南西部（船津駅の近辺）。</ref>
<ref name="sukuri">「スクリの木」は「スグリの木」か？</ref>
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</references>
== 関連項目 ==
* [[大台ケ原]]
{{デフォルトソート:たいしやくらのかいしよ}}
[[Category:資料]]
