不知火
「不知火」とは、海上に見える怪しい火のことで、蜃気楼の一種である。
しかし本章では、「玉の在処を知らぬ(知らない)」ということを「不知火」という言葉に掛けているのではないかと思われる。
黒姫は前章〔第22巻第2章「探り合ひ」#〕ではテーリスタン・カーリンスが「黄金の玉」を盗んだと疑って詰問したが、本章では二人の主人だった鷹依姫に「二人に命じて玉を盗ませたのだろう」と詰め寄る。しかし鷹依姫はきっぱり否定した。(つまり玉の在処は誰も知らぬということ)
玉が盗まれたにもかかわらず、錦の宮の教主・言依別命は、管理していた黒姫を叱責せず、玉が紛失したのは神様の思し召しだとして、〈只今限り玉の事は云はないがよい〉〈責任は私が負ひます。皆さま、これきり忘れて下さい〉と、玉の紛失問題を終了させてしまう。
問題が蜃気楼のように消え去った、という意味も、「不知火」という章題に込められている可能性もある。