乱れ髪
「乱れ髪」とは文字通り、乱れた髪の毛、ということだが、文学表現としては、心・感情が乱れる、男女関係が乱れる、社会・秩序が乱れるということの比喩として使われる。
本章においては誰かの髪の毛が乱れているわけではないので、比喩だと思われる。乱れているものは、登場人物の正体や、敵味方、思惑である。
登場人物の身分・正体が何重にも反転して行く。
- 常世城の固虎彦(固山彦)が、三五教の宣伝使・淤縢山津見を捕まえてロツキー城に連れて来た。(実はそういう芝居をしている。固虎彦は改心して三五教になっている[1])
- 淤縢山津見が、自分は昔、大国彦に仕えた醜国別だと正体を明かす。
- 淤縢山津見が、日の出神の正体を、大国彦だと見抜く。(大国彦が僭称して日の出神になりすましていた)
- 淤縢山津見が、伊弉冊大神の正体は、大国姫(大国彦の妻)だと見抜く。(大国姫が僭称して伊弉冊大神になりすましていた)
- 淤縢山津見が、自分は大国彦(偽の日の出神)に昔仕えていたその恩に報いるため、わざと三五教の宣伝使となって三五教側の様子を探り、その情報を持ち帰った、と話す。(この話は嘘であり、淤縢山津見は真の三五教の宣伝使である。大国彦の信用を得るため、そのような嘘をついた)
- 照彦が蚊々虎(大国彦の家来)の姿に変身する。
- その偽の蚊々虎が、月雪花の宣伝使を連れてきて、「松竹梅の宣伝使が月雪花だと偽って三五教を宣伝していたので捕らえて連れて来た」と言う。
- その松竹梅の三人を見た大国彦(偽の日の出神)が、昨年、松竹梅を本城に連れてきたので、その三人が本物かどうか疑う。
- 固山彦が「昨年連行されて来た松竹梅は煙となって消えてしまったが、実は広国別(大国彦の部下)が天教山に寝返って、大国彦の計画を覆すため妖術を使ったのだ、こちらの松竹梅が本物だ」と大国彦に話す。(広国別は寝返っていない。そういう嘘をついて大国彦を騙した。その結果、大国彦は部下に、常世城へ広国別を捕まえに行かせた)
このように人物の仮面が次々に剥がれて、その正体が現れて行く。しかしその正体も実は嘘だったりするので、誰が誰なのか、誰が敵で誰が味方なのか、混乱して行く。
このようなさまを「乱れ髪」と表現したのではないかと考えられる。