天産自給
天産自給(てんさんじきゅう)とは、出口王仁三郎が提唱する思想。各国土にはそれぞれ適した衣食住があり、その国土で生産されたものによって衣食住を調達し、生活を営むことが天則であるとする。「皇道維新」の一翼をになう思想。天産物自給(てんさんぶつじきゅう)とも呼ばれる。
「天産自給」「天産物自給」という言葉は、王仁三郎以前には使われていないようなので[1]、おそらく王仁三郎独自の用語だと思われる。
概要
天産自給の思想は主に、王仁三郎の著作集『皇道維新と経綸』と、古事記言霊解「大気津姫の段」に記されている。
第六章 天産物自給の国家経済
天産物自給の国家経済について少しく述べんに、天産物とは天賦の産物である。自給とは自ら支給し自ら生活する事である。この文字はすこぶる簡単であるけれども、これ世界の人類に取っては生活上の大問題であらねばならぬ。皇道経綸の本旨においては、すこぶる高遠なる意義の存する事であって、衣食住の根本革新問題である。(略)
吾人が発表する所の根本起源は、即ち祖宗の遺訓し給える天理人道による人生経綸の根本義であって、天下の公道である。天地自然の経済的本義である。
古往今来、天理人道未だ明らかならずして、野生的欲望の窮極するところ、ついに弱肉強食の暴状をもあえて憚らざるに至ったのである。殊に最もはなはだしきは西洋強国の暴状である。彼らは人生の本義を全く知らない。動植物が天賦自然の使命を有する事も知らない。弱肉強食的野獣性を発揮して、無暗に鳥獣を屠殺してその肉に舌鼓を打ち、その毛羽や皮革を服用して文明社会の常事としていささかも怪しまないのは、野蛮因習の然らしむる所であって、その残忍、酷薄なる習慣はますます増長して、ついには他人の国家を侵蝕し、併呑し、飽食暖衣を誇るを以て、世界的文明強国なりと信じて居るのである。仏者のいわゆる畜生道、餓鬼道、修羅は、最も適切な現代の評語であらう。(略)
第七章 食糧問題
人類生活の根本原料なる食料品は、各自天賦的に発生する土地の生産物を以て、需要供給の原則とする事は世界的通義である。
しかるに古来、金銀為本的国家経済の流行するに及んでついにその本末を顛倒して怪しまないのは、現代の通弊である。これ全く天理人道の不明に帰するのであるが、天運循環神威顕現の今日においては、根本革正の時機が到来したのである。
古今国家の治乱興廃の原因は、必ず政権及び土地を獲得し、以て衣食住の欲望と虚栄とに満足し、かつこれを我の子孫に享受せしめんとするが為である。要するに食料問題がその最要件なのである。
人生の根本義は、生活せんが為に世に生れ出たるものでない事は、あえて疑うべき余地は無い。けれどもその欲望を満たさんが為に、世界の人類が相競い相争いつつある事は、疑いなき事実である。冠履顛倒、本末矛盾せるは、世界的国家の経綸である。食料問題もまたこれに準じて居るのである。即ち大にしては天賦所生の土地を遊猟場と化せしめ、あるいは工業地と為し、一は以て残忍酷薄なる遊戯に耽溺し、一は以て金銀財力の収穫を目的とするものである。
しかして野獣的欲望の窮極は、利害相衝突するところ、国家の存亡を賭して戦争するに立ち到ったのである。これ世界の平和を破り、人生の不安を醸す原因である。日本皇国の天職は、これを根本より革正して、世界永遠の平和を確実ならしめ、人生の本義を明らかにするにあるのである。(略)
第八章 住宅問題
(略)宏大なる邸宅は、土毛を妨害し、珍奇贅沢なる結構は、以て亡国の素因を醸成するものである。これみな天産自給の天則に違反するのみならず、国家経済の原則に矛盾するものである。
次に国民住宅の根本義は、
各人その家族の多寡に応じて造る事
気候風土に適すべき事
その職務に適すべき事
天産自給における国民住宅の根本義は、全国民一人の徒食遊民の絶無なるをもって基礎となすべきものである。これ即ち国家的大家族制度の実現せらるべき所以である。統一的国民の住宅は、天産自給の国家経済を充実円満ならしむるのが大主眼である。
第七章 皇道経綸の根本要義
(略)以上の真義は、全世界の陸地には人類棲息し居りて、其性質及び能力は各其の気候、風土の異別あるが如く根本的に区別あり。蓋し其土地を経営すべき適当なる性質を先天的に賦与せられ居る故に、その風土、気候等の異別によりて異り居るものなり。亦其の天賦的自然に発生せる人類及び人類の国家経綸の努力を補助すベき機関の働きをなすベく発生せる動物の生活すべき糧食は、その土地に相応して生産す。この故に天賦発生の土地を離散せずして子孫繁栄し相続して、その天命的国土を経綸すべき事を示し給ふ。(略)
以上の真義は、天命的国土を経綸せしむるが為に、天賦の地に生れ出でたる人類動植物は恒に一定の範囲に生死往来して生れ出て、以て国土経綸の天職を尽すベき人生の本義を示し給ふ。(略)
第九章 天産自給
人生の本義たるや其の天賦所生の国家を経綸するを以て根本原則となす。されば其の人類の生活に適当する衣食住の物は必ず其の土地に産出するもの也。故に天賦所生の人間は其の智能を啓発し、以て天恵の福利を開拓して文明の利用を研究し、その国土を経営するは人生の根本天則たる也。
由来世界各国経済は天造草昧なる野蛮の遺風也。抑も人文未開の遊牧時代は、天産自給の天則を知らず、腕力を以て他民族を征服し、巡遊侵略以て国家を組織し、茲に租税徴貢の制を定むるに至れる也。この強食弱肉の蛮風は、世界を風靡して遂に自称文明強国を現出せるもの也。彼等曰く、優勝劣敗は天理の自然なりと、咄々何等の囈語ぞ、この天理破壊の魔道は今や大日本皇道大本開祖の神示によりて根本より廃滅さるべき時代の到着せる也。
(略)今日のやうに国家の重臣や、清浄なる神明に奉仕する神官等が、小豆を着用せずして、獣畜の毛皮を以て作れる、衣服を着用するなぞは、実に天則違反の行為であります。
『陰に麦生り』と云ふ事は、西洋人は麦を常食とすると云ふ意義であります。日本およびその他の東洋諸国は陽の位置にある国土であるから、陽性の食物たる米を常食とするのが、国土自然の道理である。西洋は陰の位置にある国土であるから陰性の食物たる麦を常食とするのが国土自然の道理である。故に西洋人は麦で作つたパンを食ひ、東洋人殊に日本人は米食をするのが天賦の本性である。(略)
『尻に大豆生りき』と云ふ事は、同じ日本国でも北海道などは、日本国の尻である。大豆は脂肪に富んだ植物であるから、寒い国の人間は、如何しても大豆類を食する必要がある。大豆を喰つて居れば、寒い国でも健康を害すると曰ふ如うな事はない。(略)要するに、この段の古事記御本文は、第一に各自の国土に応じたる食制を、神界より定め玉うたのであります。
(略)『茲を取らして』と云ふ事は、前記の御本文の御食制を、採用されてと云ふ事で、素盞嗚尊の食物に関する御定案を、直に御採用遊ばした事であります。『種と成し玉ひき』と云ふ事は、この食制を基として、天地改良の神策を樹立し玉うたと云ふ事であります。故に人間はこの天則に違反して、暴食する時は大切なる神の宮居たる身体を毀損するやうな事になつて、天寿を全うする事が出来ぬやうに成るのであるから、人間は日々の食物には、充分に注意を払ふ可きものであります。天産自給の思想は大本神諭にも現れている。一例を挙げる。
栗原白嶺による次の一文が天産自給を簡潔に言い表している。
外来種について王仁三郎は、国内で栽培されてある程度の年数を経れば、食べてもよくなると述べている。「トマトは向う(外国)から来たのを食べたらいかぬので、こちら(日本)になじんだのは食べてよいのである。十年したら日本のトマトになる」(昭和19年)〔『新月の光』0807「トマトと肉」〕。
天産自給ブロック
出口京太郎『出口王仁三郎の示した未来へ』によると、王仁三郎は世界は十二のブロックに分かれるというようなことを語っていたという。「祖父は、世界はおおよそ十二のブロックに分割大連合され、世界政府ができて戦争のない世界になるのだといっている」(p252)、「やがては世界が十二ほどのブロックに再分割される」(p282)。[2]
このブロックとはおそらく天産自給が可能な経済ブロックのことだと思われる。
日本は天産自給が出来る国だと王仁三郎は説いている[3]ので、日本はそれで一つの天産自給経済ブロックになるのだと思われる。
関連資料
- 出口王仁三郎『皇道維新と経綸』昭和9年(1934年)10月、天声社
- 栗原白嶺『神示と世相』昭和10年(1935年)6月、青雲社
- 『まつのよ 第八号別冊(付録) 愛善みずほ会創立六十周年記念 「農」に関するご教示集』平成20年(2008年)8月、天声社
- 飯塚弘明.com「世界大家族制とベーシックインカム(21)「天産自給」とは?」